M&Aで注目されている業界と実例

◆医療・介護分野

医療・介護業界は、M&Aが盛んに実施されている業界のひとつです。

近年の日本では高齢化の進行や健康志向の上昇などが見られており、これらのニーズを受けるべく医療・介護業界への進出を図る他業種の企業が増加傾向にあります。

しかしながら、他業種の多くの企業は、医療・介護業界に関するノウハウを有しておらず、医療・介護業界では専門的な資格を持つ人材・設備も整っていません。こうした事情を受けて、M&Aにより既存の医院や介護施設などを買収し、人材や設備を確保したうえで医療・介護業界に進出する会社が増加しています。

もともと医療や介護に関係する施設は公共性が強く、後継者不在や経営不振により廃業となれば該当の地域に悪影響を及ぼすおそれがあります。以上のことから、医療・介護業界では、既存の施設を存続させるための手段として、M&Aが活用されるケースが多いくなってきています。

また、調剤薬局はM&A業界で注目されているジャンルのひとつです。

なぜなら、店舗数はコンビニ並みに存在しているのにもかかわらず、後継者の不在や、働き手となる薬剤師の不足が深刻化しているからです。

薬剤師は一日で対応できる処方箋は40枚までと定められており、より多くの処方箋を調剤するためには多くの薬剤師を雇う必要があります。

また、地方の調剤薬局ではさらに店舗数が少なく、後継者が見つからずに貴重な薬局が廃業に追い込まれるケースもあります。

M&Aが成功すれば、働き手となる人材の確保だけではなく事業の廃止も回避できることから、M&A業界では注目されている業種です。

◆IT・ソフトウェア

IT・ソフトウエア業界も、M&Aが盛んな業界のひとつです。

インターネットの普及により、店舗を持たない事業、ソフトウェア、ツールの売買は低コストで買収しやすく、コラボレーションやシナジーを求めてM&Aの対象となることが多い業界です。

IT・ソフトウエア業界にある大きな特徴は、中小規模のIT・ソフトウエア会社からも新技術・新サービスが多く誕生する点です。

とはいえ、中小企業では、せっかく新技術を開発しても広くインフラ化させるための資金がありません。

その一方で、大企業側は最先端の技術を取り込んでスピーディーにより良いサービスの提供を実現したいと考えているため、この双方の思惑が合致して盛んにM&Aが実施されています。

なお、新技術の開発は少人数でも可能ですが、これを普遍的なシステムとして運用する場合には多くの人材が必要です。

そのため、システム運用に関する人材不足を解決する手段として、開発会社を買収するM&Aも数多く実施されています。

 

◆広告業界

ここ数年、テレビやラジオ、新聞といったメディア広告費は減少傾向にありますが、その一方で、インターネット広告の需要が高まっています。スマートフォンの普及に伴ってインターネット広告は急成長を見せています。

広告のデジタル化によって広告業界にも変化が起き、インターネット広告を得意とする企業の譲渡が増加中です。

また大手広告企業の中には、M&Aによって世界各国に拠点をおくことに成功している企業もあります。

今後、5G回線が普及してインターネット環境がさらに整備されれば、広告業界でのM&Aも加速していくものと想定されます。

◆具体的なM&A事例

①ソフトバンク
2018(平成30)年に東証一部への再上場を果たしたソフトバンクですが、その成長の要因にはM&Aが深く関わっています。そして、2021(令和3)年に大きなトピックとなっているニュースは、子会社であるZホールディングスとLINEの経営統合です。

同年3月には経営統合が完了しており、ヤフーとLINEは新生Zホールディングスのグループ会社として傘下に入っています。

②LINE
上記①で記載したとおり、2021(令和3)年3月にZホールディングスとの経営統合を完了させています。

本件M&Aにより、根幹領域の「検索・ポータル」「広告」「メッセンジャー」に加えて、「コマース」「ローカル・バーティカル」「フィンテック」「社会」の4領域に事業を集中すると発表しました。

これに伴い、今後5年間で5,000億円を投資し、2023年度には売上収益2兆円・営業利益2,250億円を目指しています。

③昭和電工
2019(令和元)年12月、昭和電工は、日立化成をTOB(take-over bid=株式公開買付け)により買収すると発表しました。

総合化学大手の一角を担う会社ですが、電子・情報材料など高収益の事業に注力する事業再構築により「脱総合化」を図っており、「個性派化学」を目指しています。

売却側の日立化成は日立製作所の子会社であり、昭和電工と同業種の企業です。本件M&Aの取引金額は、およそ9,640億円です。

経営戦略の一環として、日立製作所グループは日立化成を譲渡しています。

なお、本件は資産規模の小さい方が親会社となる、いわば逆TOBの事例としても有名です

④野村不動産ホールディングス
2019(令和元)年3月、野村不動産ホールディングスは、傘下である野村不動産を通じて、隆文堂の株式すべてを取得し完全子会社化しました。本件M&Aの取引金額は非公開です。買収側の野村不動産は野村證券系の総合不動産会社であり、分譲マンションのPROUDシリーズで広く知られています。

売却側の隆文堂は、「庭のホテル東京」を保有・運営している会社です。本件M&Aの目的は、ホテル事業の拡大・成長の加速にあります。

⑤ココカラファイン
2019(令和元)年2月、ココカラファインは、小石川薬局の株式すべてを取得し完全子会社化しました。本件M&Aの取引金額は非公開とされています。

買収側のココカラファインは、神奈川県に本社を置くドラッグストアチェーンを展開する企業の持株会社です。

グループ企業の「ココカラファイン ヘルスケア」では、1,451店舗を展開中です(2021年4月現在)。売却側の小石川薬局は、東京都において調剤薬局1店舗を経営しています。本件M&Aの目的は、ドラッグストア事業および調剤薬局事業の拡充などです。

⑥ドン・キホーテ
ドン・キホーテは、ディカウントストアとしてトップクラスの売り上げ・知名度を誇る企業です。2018(平成30)年10月、その持株会社であるパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(2019年にドンキホーテホールディングスより商号変更)は、ユニーを完全子会社化しました。

これにより、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは日本で有数の規模を誇る小売企業に成長し、今後も業績のさらなる伸長が見込まれています。


⑦サイバーエージェント
IT業界で有名なサイバーエージェントですが、2018(平成30)年10月、J2リーグに所属するサッカーチーム「町田ゼルビア」の買収により大きな話題となりました。また、2017(平成29)年9月にプロレス団体「DDT」の株式を、2020(令和2)年1月にノア・グローバルエンタテインメントの株式を取得しています。

このように、最近ではIT関連の会社がスポーツ関連の団体を買収する事例が増えており、サイバーエージェントのM&Aは集客を引き上げるうえで重要な戦略として位置付けられています。


⑧ライブドア
2005(平成17)年に話題となったフジテレビおよびニッポン放送買収騒動は日本でそれほど実例が見られない敵対的買収M&Aの典型例です。

ライブドアによる敵対的M&Aは、最終的にフジテレビ&ニッポン放送側の買収防衛策の発動によって失敗に終わりました。とはいえ、買収防衛策の実例まで見られる貴重なサンプルとして、後世の人間に影響を与えたM&Aニュースです。

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